日々の歩み

2005年12月6日
「あなた、反省してるといいなさい!」

 友人の弁護士が、あるオーバーステイの外国人の覚せい剤事件の弁護を引き受けました。被告人は、日本語がほとんどわからないので、通訳が必要な事件。

 通訳の方は、被告人と同じ国籍の40~50歳くらいの女性で、日本語は非常に流暢、見るからに「インテリ!」という感じの、どことなく正義感の感じられる方。

 被告人が、通訳を必要とする外国人事件の場合、裁判官が話した言葉を通訳が母国語で話し、それに被告人が母国語で答えるのを通訳が日本語に訳す、という、非常に時間のかかる展開となります。

 さて、いよいよ被告人質問も大詰めになったころ、弁護人が、被告人に反省を促す質問をしました。

 「あなたは、覚せい剤を使用してしまったことについて、どう思っていますか。」

 通訳がそれを訳すと、それに対して、被告人が、2言3言答える。

 すると、通訳は被告人の言葉を日本語に訳すかわりに、もう1度「○×△□?」(全く言葉がわからない国なので、単語すらわからない)と質問を繰り返しました。

(あれれ? 被告人が質問の意味を理解しなかったのかな・・・?)と思う私。

 被告人が、「△○□・・・」と答えると、通訳は、その言葉も、また日本語に訳さず、もう1度「○×△□○×△□○×△□?」と問い返す。
 被告人が、再度答えても、やはり通訳はそれを日本語には訳さない。

 そのうち、通訳は、だんだんと怒ったような表情をし始め、語気荒く、何度も度質問をする。
 そんなふうに、裁判官にも弁護士にも何が何やらわからないまま、外国語による問答が何度も繰り返されたのでした。

 最後に、被告人が、少しうなだれて「○×・・・。」と答えると、通訳は、満足そうに「うんうん。」とうなずき、ようやく、日本語で通訳して、こう言いました。

 「はい。私は、今回の件についてものすごく反省し、馬鹿なことをしたと思っています。2度と絶対にこんなことはしません。」

 そこに至るまでのあまりの通訳の剣幕に、少々唖然としていた私は、一緒に傍聴していた被告人と同じ国籍の親友(日本語も話せる!)に、「あの通訳、何をあんなに怒って話してたの?」と尋ねました。

 すると、彼は、「あいつ(被告人)が、『反省してますか?』って聞かれて、普通に『はい、してます』って言っただけだったから、通訳が、『そんな答え方じゃだめだ。もっと反省をきちんと表さなければ!』って言ってた。それから『そういう答え方ではまだ足りない!』『あなたは本当に馬鹿なことをしたんだ。それをわかっているのか?』とか、『ちゃんと反省しているのがわかるように話せ!』とか、説教してた。」

 私は、驚いて、さらにいっそう唖然としてしまった。通訳が、誰にも言葉がわからないことを良いことに、そんなことを勝手に言っていたとは・・・・。

 法廷を出た後、ばったりとその通訳と出くわしたので、少し話をしたら、その通訳さん、何ら悪びれることもなく、流暢な日本語で、「全く、今の被告人は反省が足りません! ですから、私が叱りました。全く、私同じ国の人間として恥ずかしいです!! 反省していることを、もっときちんとした言葉で言わなければ刑が重くなるというのに!!」

 本当のところ、通訳がそんなことをするのは、非常にまずいこと・・・。

 しかし、同国人同士、そういう形で助け合うのもありなのかな・・・。なんだかちょっと感動でした。

 ところで、当の被告人、法廷を出ていくとき、傍聴席にいた友人にウィンクなどを飛ばしてました。本当に反省が足らんぞ!(笑)

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