日々の歩み

2006年8月30日
不倫の代償

 先日、弁護士会で開催された「不貞行為と慰謝料」についての講義に出席しました。

 家事部で長く勤められた経験を持つ裁判官が講師を迎えての講演で、実際の経験に即した興味深い話がうかがえて、非常に参考になりました。

 講義の後は、質疑応答タイム。

 いろいろな先生方の経験談が披露されるなど興味深いのですが、今回は、テーマがテーマだっただけに、その質疑応答の内容に、なんだか人生観みたいなものがあらわれいたのが面白かったのでした。

 ある男性の先生は、「不貞行為は不法行為にはならない。」とされる海外の法律があることをあげられて、「結婚していたとしても、不倫をされた相手はいわば『恋愛の自由競争』に負けた」のだから、不倫相手に慰謝料を請求するのは認められるべきではない。」という持論を述べておられました。

 また、「慰謝料請求は、不倫相手ではなくて、自分の配偶者にするべきだ」という意見の方も多かったようです(特に男性の先生が同意の拍手をしていたような?)。

 実際、日本でも、不貞行為の相手に損害賠償責任は認めるべきではない、という学者の先生もいらっしゃるようです。

 ただ、仮にこれが認められなくなった場合、自分の配偶者と浮気をした相手に対し、いったい何をすることができるのか? と考えると、結局、自分の苦しみと怒りを相手にぶつける以外には、何もすることができないままになってしまうのでしょう。

 裁判というのは、基本的には、金銭的な解決を図るためのものですから、不貞行為というきわめて精神的な問題の解決に、本来は適していないのかもしれません。

 それでも、「身銭を切る」という言葉があるように、金銭の支払いというのは、通常の人にとっては「痛み」となるわけです。

 だから、少なくとも、自分に痛みを与えた相手に、せめて形は違うけれど、痛みを感じてもらうことで、結果的に自分の精神的な傷を少しでも癒すことができるかもしれない、という側面が、少なからずあるのでしょう。

 結局は、お金だけのこと。

 とはいえ、されどお金。苦しみや怒りを癒すすべのひとつが、慰謝料という形で存在していること、そういう手段がある、ということ自体が、必要なのかもしれないです。