日々の歩み

2005年9月1日
裁判所での勝負服

私の好きな映画に「ミュージック・ボックス」という映画がある。
 
 アメリカに移住して長年平穏に暮らしていた男性が、ある日、ナチの戦犯として被告人になり、その娘が弁護士として父親の弁護をする。
 その映画の中で、娘の弁護士が、裁判所で傍聴人達が見守る中、裁判所に自分の子供(=つまり、被告人の孫)をつれてきて、コソコソっと「おじいちゃんにキスして、抱き合って。」と言って、「仲の良いファミリーの優しいおじいちゃん。」の姿をアピールする場面があった。

 被告人じゃなくっても、裁判所に証人として呼ばれる場合がある。そういうとき、どんな印象を裁判所に与えたいと思うだろう?

 以前に、ある人が、「暴行を受けた。仕事上で虐待を受けた。」と訴えられ(刑事裁判じゃないので「被告人」ではない。ちなみに、そんな事実もなかった。)出廷することになった。

 訴えられた本人は、とても優しい人なのだけど、普段好むスタイルが、パンチパーマに派手なイタリア物のスーツにネクタイ、金無垢の時計に指輪。裁判官からみたら、かなり迫力のあるスタイル。

 パンチをやめろ、とも言いにくく、「髪はもう少し短めに刈っておいて下さいね。スーツはシングルは・・・持ってない? そうか。ダブルでも良いですけれどなるべく光らない素材で。ネクタイも地味な色目のものがいいですね指輪もはめないでね。」と言っておいた。

 当日、びしっと刈り込んだヘアスタイルで、世間一般にいう「地味」ではないけれど、普段に比べれば大分おとなしめの格好で、当人は証人席に座った。

 ことのほかうまくいった尋問の後、「今日は時計も地味めにしてきたんですよ。」と、金無垢ではない時計を見せてくれた。しっかり宝石は入っていたけれど。

 ばかばかしいと思われるかもしれないけれど、裁判官が外見で人を判断しないとは言い切れない。迫力のあるスタイルだと、「他人をこづくぐらいしそうだな。」という先入観をもたれてしまうかもしれない。

 人間外見じゃないって言うけれど、1度しか顔を合わせない相手に対しては、外見がその印象に占める割合は非常に大きい。

 「孫にキスされ、抱きしめられる良き祖父が、ナチの戦犯であるはずがない。」という弁護士のやり方は、あこぎだけれど、職業的には正しい行いなのだと思う。

カテゴリー:弁護士・法律の話