日々の歩み

2014年7月25日
DNA鑑定(絶対的真実)vs法律(人間の約束)

先日、話題のDNA鑑定関連の最高裁判決が出ました。
実の親子関係がないことが明らかになった父子であっても、民法の嫡出推定の規定が優先し、父子関係は否定されない、という判決、3つ一緒に出たので、話題性も大きかったですよね。
今回の判決は、血縁がある男性と子供の、いわば「実質的な父子関係」よりも、「子供の身分関係の法的安定」が、優先されるべきだ、と明白に言っています。
この判決に対して、なんとなく腑に落ちない感じがあるとすれば、それは、「血縁」=「絶対的な真実」が、「法律で定められた父子関係」=「形式的な真実」に劣る・・・という印象を受けるからではないでしょうか?
では、「子供の身分関係の法的安定」というものが、なぜそれほどまでに大切にされるのか?
以前にもブログで書きましたが、民法が制定された当時は、DNA鑑定はおろか、血液型ですら、父子関係の確定をすることはできない時代。
そうなると、結婚している夫婦の間に生まれた子供は、「その夫婦の子供である、ということにしておくのがいいんじゃない。」という意見が多かったので、そのように法律が決まったわけです(実際はこんなにざっくりした話ではないでしょうが・・・)。
仮に、不都合な真実があったとしても、その真実は誰にも(あるいは母親以外には)わからないわけですから、「そうなんだ!」と決めることで、子供は、「夫婦の嫡出子」という安定した身分を得ることができるわけです。
しかし、そんな決めごとは、血縁という絶対的真実の前では意味がないのではないか・・・。
そういう疑問が出てきます。
そもそも、法律の中身は、一体どうやって決まってきたのでしょう?
例えば、民法などは、人間が、他の人間と一緒に生活をしていくうえで、
「そういう決まりを作らないと、お互いに生きにくい世の中になるから、みんなが住みやすいようにそうしよう。」
という、いわば、人間が便利で生きやすいように作られた「約束事」のようなもの。
そして、「結婚している夫婦の間に生まれた子供」は、「その夫婦の子供。」ということにすることが、結婚という制度から考えても自然だし、子供にとっても、誰に保護されて、養ってもらえば良いのかはっきりして、子供のためにもなるわけです。
子供にとって、養ってもらうお父さんが誰だかわからない・・・なんていうのは、とても不安定だし、不安な状況ですから、そういうことはできるだけ避けたい。
つまり、この「嫡出推定の規定」は、子供の立場からすれば、自分の保護や養育について責任を持ってくれる両親が誰なのか、家庭内の事情についてはあれこれ詮索することなく、早い所決めましょう、というために作られた、ということになるわけです。
ただ、今となってみれば、これはDNA鑑定というものが想定されていなかったから、決めることができた「約束」なのかもしれません。
それでも、最高裁は、いくらDNA鑑定の技術が発達しようが、今まで決めてきたの約束(法律)は守ろう、という判断を下しました。
そして、DNA鑑定による絶対的真実を尊重する気持ちはわかるとしても、それは「新しい約束(法律)」を作るまで待とう、という判断をしたのだと思います。
さて、この最高裁の判例の結論によって、少し前に話題になっていた、大沢樹生さんと、喜多嶋舞さんの子供さんの件も、影響を受けることになります。
こちらが今どういう状況になっているのかは詳しくはわかりませんが、仮に、大沢さんが、子供さんとの親子関係を否定するために訴えを起こしていた場合、今回の判例の考え方に従えば、いくら大沢さんと子供さんの間に血縁がないという証拠があったとしても、「自分の子供ではない。」という判決にはならないものと思われます。
確か、子供さんは、自分が大沢さんの子供である、と主張していたわけですから、その場合は、そのような結論の方が腑に落ちるし、安心できます。
反対に、「DNA鑑定による血縁重視」の考え方を、これから極端に推し進めていった場合、嫡出はもはや「推定」する必要はなくなってきます。
極論ですが、子供の出生のときにDNA鑑定を義務付け、鑑定結果によって父子関係も定めれば良いのですから・・・。
そうなってしまったら、せっかく結婚している夫婦から生まれたのに、父親と血縁がなかった子供は、誰を父親とすれば良いのでしょう? 
そのためには、やはり新しい法律、つまりどういう約束事をするかを決めなくてはなりませんし、それには時間をかけて、多くの人の意見を聞いていかなければなりません。
今回の最高裁で判例で簡単に決めてしまうのは、やはり躊躇されたのでしょう。「「秘すれば花」ではないですが、今のところは、「そういうことにしておこう。」という約束をは守っていくしかない、という最高裁の考え方にも、ある程度、納得が行くように思うのです。