日々の歩み

2012年6月21日
原監督が守ろうとしたもの~名誉毀損の話

 巨人軍の原監督の昔のスキャンダルが、今頃になって週刊誌に掲載されたことが大きなニュースになっています。そして、記事を掲載した週刊誌に対しての名誉毀損の裁判が始まる模様。

 名誉毀損といえば、以前は、写真週刊誌、大衆雑誌が主体となるイメージでしたが、最近では、ネット上の個人の書き込みが大きなウェイトを占めるようになっています。

 名誉毀損は、いわゆる不法行為として損害賠償や慰謝料の対象になりますが、交通事故などと同じく、その「取り返しのつかなさ」が大きな特徴だと言えます。

 失われた信用や名誉を取り戻すために法律が用意している手当というのは、慰謝料等の金銭的なもの、そしてあとは謝罪広告くらいではなもの。

 しかし、一度広まってしまった不名誉を、それを知ってしまった人の記憶から消し去ることはなかなかできない、ということで、あとは時が経過するこをじっと待つしかありません。

 自分の力ではいかんともしがたい限界があり、無力感にさいなまれます。
 
 だからこそ、そのような不名誉は、外へ出てしまう前に何とかする・・・・。それが金銭的な犠牲を伴うものであっても、と考える人がいるのは当然です。

 他人のスキャンダルを掲載する雑誌などには、毎号毎号、新しく発刊されるたびに、取り上げられた芸能人の代理人から、「名誉毀損」を訴える内容証明郵便が当たり前のように何通も届く、という話を聞きます。

 実は、その駆け引きは、掲載前から始まっていて、スキャンダル等の記事の掲載を予定している出版社は、その記事の対象となっている人に対して、前もって連絡をとることが多いようです。

  「こういう記事(写真)を掲載する予定だが。」と持ちかけつつ、その記事の買い取りについても打診をしたりすることもあります。

 すべての記事がそのようなプロセスを踏んでいるかは知りませんが、実際にそのようなケースを私も見聞きしましたので、現実にあることは間違いなさそうです。

 それでも、マスコミに、不名誉な記事が出てしまった後の取り返しのつかなさを考えれば、後々慰謝料をもらって謝罪をされるよりも、水際でそれをせきとめた方が良いに決まっています。

 まさに覆水盆に返らず。

 原監督は、器の中の美しい水を、そのまま器の中で美しいままにとどめておかなければならず、間違っても、地面にこぼして泥まみれの汚水にしてはならない、と考えたのでしょう。

 最近は、風評被害対策がトレンドとなっていますが、このネットでの伝播力、情報の二次使用、三次使用があたりまえな風土からすれば、盆からあふれた水をもとに戻すことはまず不可能、ベストは無理にしても、ベターを目指すしかなさそうです。

 そうなると、水際でこのような名誉毀損行為をやめさせるための抑止力としては、どうしても刑事事件とするために警察に頼るしかない、ということになります。

 しかし、これがまた、とても歯がゆいところ・・・。

 警察は、本当に名誉毀損には慎重で、私が以前扱った名誉毀損の事件も、警察に告訴を受理してもらえたのは、併行して訴えていた民事裁判の第一審で、裁判所から、「名誉毀損」を認めて、損害賠償を命じる判決が出された後、でしたから。

 そう、名誉毀損で告訴、という局面に至ると、警察の方は、「表現の自由」へとても配慮し始めるのです。

 ちょっと尻切れトンボですが、長くなるので、このあたりのことは、また改めて書きたいと思います。

カテゴリー:弁護士・法律の話